メイドとは何か?
そう問われれば、思い浮かぶのはフリルのついたメイド服を着た“少女”を連想するのが今の世間一般のイメージだ。
さて、昨今有名になったメイド喫茶のようにメイドとはメイド服を着た女の子、と捉えている人が多いが、それは本当のメイドとは少し違う。
福潤宝 本来のメイドとは奉仕、家庭内労働を行う使用人を指す言葉である。
日本語では『家政婦』というなぜか“おばさん”をイメージさせる言葉なのだ。
ゆえに、メイド服を着ているただの女の子が本当のメイドではない。
今のメイドとは日本文化が作り出した別物である。
本質の一部を変化させた似て非なるもの。
それを『進化』と考えるか、『改悪』と考えるかは人それぞれだろう。
細かい話はさておき、メイドとは男の憧れだ。
『御主人様』というメイド独特のセリフと奉仕する美少女の姿。
せちがらい世の中で孤独に生きるものに、ひと時の安らぎを与えてくれる存在。
女の子にも『執事』という存在でなら理解してくれるだろう。
若い眼鏡をかけた色男が優しく身の回りの世話をして『お嬢様』と囁いてくれる。
憩いの時間、この世界には優しさが足りない。
だからこそ、人は優しさを求めて、日々新たな癒しの存在を生み出すのだ。
「……俺は夢を見ているのか」
学校から帰り、玄関を開けるとそこには……。
「え、あ?お兄さんっ!?」
メイドの姿をして、慌てて服を隠そうとする天使みたいな可愛い妹がいた。
白色のフリルがついたエプロンに、黒を基調としたドレス風のメイド服。
そう、それは夢にまで見た『メイド』であった。
今、俺は声を高らかにして叫びたい。
『メイド万歳!』
思わず右手親指をたてながら「グッジョブ!」と叫ぶ俺。
妹はため息をつくべきか、無視するべきかを迷いながら、
「とりあえず、言い訳させてくれますか?」
「言い訳もなにもついにこのお兄ちゃんに奉仕してくれる時が来たということだろう。さぁ、妹よ。あの名台詞を俺に言ってくれ」
「迷台詞ですか?」
「違う、迷ってないから。その服を着たら言うべき名台詞があるだろう。ほら、お兄ちゃんが学校から家に帰ってきました。なんて言いますか?」
妹は「うーん」と軽く腕を組んで本気の思案顔。
そして彼女は俺に言った。
「もう家に帰ってこないでください」
「拒絶ッ!?」
妹に「お帰りなさい」を通りこし、「出て行け」と言われた。
離婚しかけの熟年夫婦の会話です、それは。
ああ、世間の風はなんて冷たく厳しいのだ。
ちなみに妄想で補完するならこういう展開を望んでいました。
挺三天 『お帰りなさいませ、御主人様』
そう言って俺に癒しを与えてくれる妹の姿。
『御主人様、私……貴方になら……(自主規制)』
いかん、これ以上は……遠い世界の住人になりそうだ。
妹の黒に煌く髪、蒼い瞳がメイド服と絶妙にマッチしている、洋風メイドを彷彿させながら和風メイドという新たな世界へと導いてくれそうだ。
「お兄さん、目が怖いです」
と、俺が新世界に旅立とうとしている姿に妹は嫌悪の眼差しをする。
「おっと、いけない。危うく別世界の住人になりそうだった。それはおいといて、その服はどうしたんだ?メイド服だろ、それ?」
俺の純粋な妹が自分からその手の道に入り込んだとは考えにくい。
誰から話を聞いたのか、それとも、俺のベッドの下に隠してある女の子には見せられない男の秘密を覗いてしまったか、なんらかの第三者的関与が疑われる。
「中学校の部活、私は帰宅部だったんですけど、誘われて料理部に入ることにしたんです。本格的な活動は4月に入って新学期からなんですが、顧問の先生が部活動用に考案しているコスチュームを着てくれないかって言われたんです。新学期までにコスチュームを完成させたいから、その試作品を着て欲しいって」
妹はメイド服を手で触りながら「変じゃないですか」と確認する。
先生、質問があります。
どこの学校に部活でメイド服を着せて活動させる先生がいますか。
俺はその先生に萌える、訂正、燃える俺の魂の全てを込めて言いたい。
「先生、グッジョブ!」
「……なんですか?そのグッジョブって?」
俺の意味不明な発言に突っ込む妹。
それはそれで何だか気まずいんですが。
「グッドジョブ。いい仕事をしている、という意味だ。先生は目の付け所が違うな。さすがは教師。いい先生だな。ちなみに料理部という事は女の先生だろ?学生時代にコスプレでもしていたのか?」
「いいえ。男の人です。担当は体育の先生ですよ。筋肉がたっぷりついた身体に厳つい顔がチャームポイントの権藤健次郎先生。趣味が裁縫と料理作りっていうギャップが何だか可愛いですよね」
「……それは微妙だ。先生と言うより、男としては尊敬できるけど」
権藤先生のことは記憶の彼方へ封印しておこう。
願わくば、俺の妹がこれ以上毒されませんように。
妹のメイド姿は本当に似合うなぁ。
くるりと回転させて、髪をふわっと浮き上がらせればもう完璧。
『御主人様、メイドの私に命令してください』
そう言いながら彼女は上目遣いで俺を見つめるのだった。
いい、その展開すごくいい!
さて、夢の実現といこうではないか、メイド愛好家の同志諸君。
「妹よ、その……俺に『御主人様』と言ってくれないか」
JACK ED 情愛芳香劑 正品 RUSH 「真顔で何を気持ちの悪いこと、言ってるんですか」
「男には時としてプライドを捨てる事もあるんだ」
「元々、捨てる価値もないプライドでしょう?」
相変わらず遠慮容赦のない言葉ですね。
しかし、妹は「仕方がない人」と言いながらも俺に向き合う。
「ご主人様ぁ♪」
片目を閉じてウインクひとつ、愛らしいその唇から囁かれたその言葉。
御主人様、ご主人様、ごしゅじんさま……(エコー)。
「ぐぁガオgh好dhgで……!!」
解読不能な発言、俺の心に反響する妹の言葉が体験したことのない衝撃を与える。
俺は今までこんな衝撃を受けたことがあるか、否、ない。
こ、この俺が萌えている?
違う、俺は……俺は魂(ソウル)を揺さぶられているのかぁ!?
妹よ、お兄ちゃんはもう死んでも悔いはありません。
俺が萌え狂い死にしそうになっているのを傍目に妹はふとこう言った。
「やっぱり、言い慣れてない言い方はおかしいですね。“お兄さん”。その呼び名がしっくりとくる気がします。ホントは呼ぶのも嫌なのに……慣れって怖いですね」
……俺は一気に目が覚めて冷静に戻る。
お兄さん、そう俺達は兄妹……血の繋がりはなくても兄妹なのだ。
メイドとは本来、使用人を指す言葉。
それは“家族”ではなく“他人”を指す言葉ではないか。
俺は……俺は何をしているんだろうか。
大事な妹になんて事をさせていたんだ。
「お兄さん?どうかしたんですか」
「別になんでもないさ。……なぁ、お腹すいてないか。夕食前のおやつタイムとしよう」
「はい、そうですね。もうこれはいいですか?」
妹はメイド服を指で示す。
俺は首を縦に振ると彼女は「意外」と不思議な顔をする。
メイド、それは……俺にとっては相対することのできないもの。
俺はそのままキッチンに入り、ケーキセットの準備をはじめる。
「……ふふっ、お兄さんの方がメイドらしいですね」
いつも妹にしているせいか、用意するのも手馴れている。
それはそれで幸せな時間だ。
俺はティーカップの準備をしながら、執事のように頭を下げて、
「少々お待ちくださいませ、お嬢様」
「はい、待ってます」
メイド服がドレスを着たお嬢様のように見える。
妹の可愛らしい顔がほころぶ姿に俺は癒されていた。
たまには……こういうのもいいな。
MaxMan 俺達は午後のティータイムを楽しんだのだった。