精力剤 : http://www.biyakushop.net/ProClass.asp?id=1

April, 2013
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恋人にはなれない
“不変を望んで何が悪い?”。
 
何一つ、変わりたくなんてなかった。
 
今がいいと思うから、変わらない事を望むのは罪か。女欲霊
 
変化なんていらない、ありのままの“現在”を望みたい。
 
過去を思い出す今になって思う。
 
あの頃の俺は絶望を味わいながらも、幸せでもあった。
 
紫苑に出会えたという奇跡。
 
関係は恋人でなくても、傍にいるという意味が大きかった。
 
お互いにとってかけがえのない必要な存在だった。
 
紫苑、今だから言える事があるんだ。
 
俺はあの時からお前の事が好きだった……ひとりの女として愛していた。
 
 
 
季節は流れ、俺は高校3年に進学して新学期が始まった。
 
まだ5月の中旬だというのに気温では初夏程度に感じる。
 
「……さすがにこの天気は暑いな」
 
俺は屋上の日陰に座りながらぼやく。
 
つまらない授業をサボっていた俺も今では普通に出るようになっていた。
 
不良扱いは相変わらずで、クラスで浮いた存在だがかまわない。
 
右腕も日常生活をおくるだけなら何とかなる程度に回復していた。
 
変わり始めた世界って奴は意外にも俺には住みよい世界だった。
 
俺の世界にはいつしか紫苑が入り込んでいる。
 
彼女と関係を持つようになってから半年が過ぎた。
 
今でもお互いにそういう気分になったら身体を重ねあう関係だ。
 
……そこに愛があるのかは未だに分からない。
 
変わらない関係というべきなのか。
 
俺達は恋人として接する事はなく、流されるように関係を続けている。
 
その日の紫苑は朝からどこか体調が悪いように見えた。
 
「……紫苑、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
 
「別に海斗に心配される事じゃないわ。私は大丈夫よ」
 
「それならいいけど……無理はするなよ」
 
紫苑の瞳はここじゃない、どこか遠くを見つめているように見えたんだ。
 
そう、ずっと遠くを彼女は見ていた。
 
「……海斗。飛べなくなった蝶々はどう生きていけばいいのかしら」
 
「また、それか。もっと具体性を持って話してくれ。何か悩みでも抱えているのか?」
 
「……これは悩みじゃない。その答えは既に出ている。ただ私はその答えに納得できないだけ。私という人間は他人が思うよりも我が侭なのよ」
 
紫苑がこういう言い方をする時、大概、俺は何も言い返してやれない。
 
俺と同じように紫苑にも人に言えない悩みっていうのがある。
 
悩みがあると分かりながらも彼女はそれが何かは喋ろうとしない。
 
どうしても、他人に踏み入らせようとしない紫苑の心。
 
知りたいと思う事はあっても、俺はそれをしなかった。
 
彼女もそれを望んでいたから、できなかった。
 
紫苑の心はガラス細工のように触れたら壊れそうな気がしたから。
 
「我が侭は悪いのか?いいじゃないか、人間っていうのは我が侭なものだろう」
 
「……皆が我が侭に生きたらこの世界はどうなると思う?」
 
「我が侭になれない世界に生きても意味はない。俺はそう思うけどな」
 
紫苑という女は一見、ポジティブに見えるが、本質はネガティブなのかもしれない。
 
いや、無理に捻じ曲げる何らかの障害があることも否定できないが。
 
彼女が時折、哲学的に話す言葉はいつも“希望”を含んでいないのだ。
 
「私は未来に希望がないのよ。ううん、言葉が足りてないわね。正確に言えば、私が望む未来を私は歩む事ができない。私には自由がないの」
 
「……どういう意味だ?」
 
「既に答えは出ているの。私には決められた道がある。その道を嫌でも歩かないと生きていけない。海斗も今なら分かるでしょう。それまで当然のようにあった日常は些細な事でも崩れ去る。人間は常に同じではいられない、変わっていく……私は変わる事が怖いわ」
 
こうして不条理な世界に突き落とされて分かった事がある。
 
人間、生き方は人それぞれ、考え方を変えただけで変わっていく。
 
……それまで歩んできた道とは少しずれただけでも怖いんだ。
 
変わる事を人間は最も怖れている。
 
「人間の意識を変えるのは難しいもの。けれど、それは否応もなく襲い掛かる場合があるわ。海斗、貴方を変えたようにね」花痴
 
「今日は一段と何を言いたいのかが分からない……」
 
紫苑と会話しているとそのテーマというか、本質を見抜かねばならない。
 
彼女は何をいいたいのか。
 
それを見つけ出すのが紫苑との正しい付き合い方だ。
 
照りつける太陽の日差し、澄み切った青空に彼女は言葉を放つ。
 
「……海斗、私達の関係って何なの?」
 
「関係?それは……」
 
改めて問われると言葉に詰まる。
 
なぜなら、俺と紫苑の関係を示すモノは何もないから。
 
お互いに友情を抱いていないから友達ではない。
 
愛情を確認しあっていないから恋人でもない。
 
つまり、俺と紫苑はクラスメイト程度の他人でしかないのだ。
 
「私達、今の関係が1番いいのかな。海斗はどう思う……?」
 
それは彼女にとってどんな想いを込めて言った言葉だろうか。
 
「……俺には今の関係が何なのか分からない。だけど、俺はお前の傍にいると落ち着く、それだけだ」
 
「……ぅっ……」
 
紫苑はなぜか唇をかみ締めるような表情を見せた。
 
それは悲しそうにも、辛そうにも見える。
 
彼女は何かに耐えるように、小声で言葉を紡いだ。
 
「そうよね、所詮、私達は他人だもの。私達は……恋人なんて甘い関係にはなれない。そんな事のために今を過ごしてるわけじゃない。セックスするのも、キスをするのも……ただ、したいからしているだけ。そこに特別な感情なんてないわ」
 
紫苑の淡々とした言葉はやけに鋭く俺の心に突き刺さる。
 
それは記憶に付箋するように、その後の残り続ける言葉。
 
俺達は恋人にはなれない……互いの身体を求める事はあっても、心までは求めない。
 
俺は紫苑が望んでいる言葉が分からず、その言葉を言えなかった。
 
もしも、この時、俺が別の言葉を呟いていたら運命は変わったのだろうか。
 
紫苑は立ち上がると屋上のフェンスを握る。
 
「……ねぇ、海斗。人はどうして空を飛べないのか考えた事はある?」
 
「羽を持たないから飛べない、そんなつまらん事を尋ねたわけじゃないだろ」
 
「ええ。人間は地上で生きる生き物だから、飛ぶ必要なんてない。だから、羽をもたないの。初めから飛べないものに翼は必要ない。でもね、最初は自由に空を羽ばたけた蝶々も綺麗な羽をもがれてしまえば飛べない。そう、飛べないの……」
 
紫苑が俺を真っ直ぐな強い視線で捉えていた。
 
思わず言葉を飲み込む俺に彼女ははっきりと告げる。
 
「……飛べなくなったモノと最初から飛べないモノ。両者はどちらも空を自由に飛べないけれど、生きている意味と言う点では異なるわ」
 
「紫苑……?」
 
「私も最初は自由に空を飛べた蝶々だった。だけど、いつのまにかその羽は飛べなくなってしまった。……私はこれからどう生きればいいの?」
 
悲痛な少女の叫び、今なら理解できる……。
 
これは紫苑の助けて欲しいという言葉だった。
 
「……きゃっ!?」
 
ふっと、突然、彼女は身体のバランスを崩す。
 
立ちくらみをするように、倒れこもうとする紫苑を俺は咄嗟に抱きかかえた。
 
「……お、おいっ。紫苑、大丈夫か!」
 
「うぅ……気持ち悪い」
 
顔色が悪いのは気づいていたが、本当にしんどそうな顔をしている。
 
症状から判断すると貧血だろうか?
 
「体調が悪いなら、先にそう言えよ。保健室に連れていってやる。立てるか?」
 
「ごめん、足に力が入らないの」
 
「……しょうがないな、それなら背負っていくか」
 
「それよりも……抱っこがいいな」
 
彼女が消え入るような声で告げたのは呆れるような我が侭だった。
 
この状況でよく言える、どうやら見た目以上に大丈夫そうだ。
 
「……ったく、後悔しても知らんぞ?」
 
「あははっ、恥ずかしいのは海斗の方じゃないの」
 
とはいえ、放っておくわけにもいかずに仕方なくそれに従う事にする。紅蜘蛛(媚薬催情粉)
 
優先すべきは紫苑の身体、文句も言っていられない。
 
「うるさい。黙って俺に掴まっていろ……お姫様」
 
俺はしがみついてくる彼女を抱きかかえる事になった。
 
いわゆる、お姫様だっこって奴だな。
 
人生でこんな経験をするとは思っていなかった。
 
「……うーん、想像以上にいい感じ。海斗はどう?」
 
「さぁな……」
 
俺は気恥ずかしさを誤魔化して、短くそう答えた。
 
本当は女性を抱きかかえるという事に緊張したが、紫苑の手前、黙っておく。
 
俺は彼女を抱きかかえたまま、屋上から出る事にした。
 
階段ですれ違う生徒たちが俺達を見て驚く顔を見せる。
 
……唯一の例外は抱きかかえられた本人、紫苑だろう。
 
笑っていたんだ、とても楽しそうに。
 
だから、俺は何も言えなくなった。
 
女の子の笑顔は時々、嫌になるくらいにずるい。
 
俺が保険室にたどり着いた頃には噂が流れる程度の人数の生徒と遭遇してしまった。
 
これで明日には、俺と紫苑の妙な噂を聞かされる事になるんだろう。
 
俺は保険医に事情を説明すると、彼女をベッドに寝かせるように言われた。
 
「……ありがとう、海斗」
 
お礼を言う紫苑の頭を俺はそっと撫でてやる。
 
例え、恋人ではなくても、俺達は自分たちらしい関係でいられる……今はそれでいい。
 
紫苑の症状はやはり貧血だった、数日前から睡眠をほとんど取れていないらしい。
 
やはり、抱えてる問題のせいだろうか。
 
俺は紫苑の力にはなれないのか、それだけが気がかりだった。
 
 
 
……放課後になって、俺は授業を終えてすぐに保険室に立ち寄った。
 
午後の時間をここで過ごした紫苑に会うためだ。
 
帰りは家の人に連絡をしたらしく、校門まで彼女を見送る事になった。
 
「……はぁ、ホントに今日は迷惑をかけたわね。ありがとう」
 
「そんなのはいちいち気にする事じゃない」
 
「海斗……私は……」
 
きゅっと俺の服を掴んだ紫苑、彼女が何かを言おうと唇を動かしたその時、
 
「……紫苑ちゃんッ!?」
 
突如、女の人の声が校門に響く。
 
こちらに近づいてきた綺麗な女の人、もしかして、紫苑の家族か?
 
「美咲姉さん?どうして……仕事はどうしたの?」
 
「そんな事より、倒れたって聞いたから来たのよ。大丈夫?すぐに病院に行く?」
 
「もうっ、心配しすぎよ。私は大丈夫だから落ち着いて」
 
お姉さんらしき人は紫苑を本当に心配しているように見えた。
 
両親はいないと聞いてるから、実際に仲がいいのだろう。
 
「あ、海斗。紹介するね、私の姉さんよ。美咲姉さん、彼が私を助けてくれたのよ」
 
「紫苑の姉の美咲です。どうも、紫苑がお世話になったみたいでありがとうございます」
 
「クラスメイトとして、当然のことをしただけですから」
 
何ていうかこういうのは照れる……。
 
挨拶を終えたあと、彼女は美咲さんの車に乗る。
 
「海斗、また明日。会いましょう」
 
「今日はゆっくり休むんだぞ。いいな?」
 
「そうね。……でも、今日みたいに優しくしてくれるのは嬉しかったわ。海斗が私に優しく接してくれるから、私はまだここにいられそう。私も海斗と一緒だから……」
 
意味深めいた言葉を口にして、彼女はそのまま車の窓を閉めた。
 
走り去っていく車を見送りながら俺は思う。
 
「そういや……人に優しくしたのはいつ以来だったかな」
 
そういう感情は封じ込めたと思っていたのに。
 
いつのまにか紫苑の前では昔の自分に戻れていた。
 
「変わる事は確かに怖いさ。だけど、その恐怖を乗り越えた先に希望はあるはずだ」美人豹
 
俺はまだ知らない、望んだ世界に希望が常にあるとは限らない事を。
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